ステアリングステム調整
ステアリングステムの調整は非常に難しい。ただトルクで管理すれば完璧という問題ではないから厄介だ。ユーザーにはステアリングステムの動きに好みがあるのだ。重めが好きなのもいれば軽く動くのが好きなのもいる。指定締め付けトルクは、テーパーローラーとボールベアリングによっても違いがあるが、このくらいの締め加減というものがあり、それはメカニックが経験して体得しなければならない。口だけでは説明できないのだ。動かしてみて納得がいかなければ面倒くさがらず何度もやり直すのが会得のコツである。
いちおう説明すると、テーパーローラーの場合はカキンカキンに締めてからステムを動かして馴染ませを繰り返して、いよいよ締まらなくなったら少し緩める。そして少しだけ締める。感覚的には少しだ。ボールベアリングの場合はもう少し強く締めてもいい。
そのあと重さを確認する。やりかたはホイールを組んでフロント周りを浮かせたままにする。中心位置で手を離しても勝手にステアリングが切れ込まないのを確認する。この時点で勝手に切れ込むようなら軽すぎだ。軽くフォークに手を触れてステアリングが切れるのを確認する。これでステアリングが動かないなら重すぎだ。ハンドルストッパーに当たって軽くバウンドする。バウンドしないなら重すぎだし、跳ね返りが強いなら軽すぎだ。
さて、ステアリングの重さにはある程度の幅はあっても基準はある。この僅かな基準の範囲内に収めるように調整しなければならない。が、例外もある。危険でないレベルでオーナーの好みに合わせる場合がある。
一度カキンカキンに締めたことがある。ステアリングベアリングの交換を依頼されて納車したのだが、その後コツッというガタが気になるので調整して欲しいという。これ以上締めると重くなりすぎると説明したが、それでも構わないという。実はバラしたときもナットが変形するほど強く締め付けられていたので気になっていたのだ。聞けば以前に他店でガタが気になるので強く締め付けるようオーダーしたのだという。さすがにタガネでぶん殴るほど締め付けなくても良いと思うが、通常のトルクではガタが気になるというのなら、なんとかしなくてはと焦ったのかもしれない。軽く指定トルクをオーバーしているので、面倒を嫌がる業者だったら責任取れないと断ったかもしれないと思った。